整体をしているとよく出会う場面があります。
「同じ施術をしても、人によって変化の出方がまったく違う」ということです。ある方は1回の施術で呼吸が深くなり、肩の軽さや視界の明るさまで感じ取られるのに、別の方は「特に変わらない」「よく分からない」と首をかしげられる。整体師としては、この差はなぜ生まれるのか?と考え込む瞬間です。
私自身、Functional Neuro Training(以下FNT)を学んでいく中で、この「体の感覚に気づけるかどうか」が施術効果の再現性を大きく左右することに強く気づかされました。
感覚が鋭い人と鈍い人
人の体には、外からの刺激を受け取る「外受容感覚」、筋肉や関節の位置や動きを把握する「固有受容感覚」、そして内臓の働きを感じ取る「内受容感覚」という三つの主要な感覚システムがあります。
感覚が鋭い方は、これらの変化に小さな違いでもすぐに気づきます。
例えば「呼吸が胸の奥まで届いた気がする」「立ち上がったときに足裏がしっかり地面を捉えている」など、細かい感覚を言葉にできるのです。
一方で感覚が鈍い方は、変化が体に起きていても「分からない」と感じるケースが多いです。前屈が10cm深くなっても「まだ固いです」と答えるようなイメージです。結果的に施術効果を実感しにくく、継続するモチベーションにもつながりにくい。これが「再現性の難しさ」に直結してきます。
なぜ感覚が鈍くなるのか?
現代社会には、感覚を鈍らせる要因があふれています。
長時間のデスクワーク、スマートフォン操作による前傾姿勢、慢性的な睡眠不足やストレス。これらは「自分の体に注意を向ける時間」を極端に減らしてしまいます。
呼吸が浅くても気づかない。首や肩がガチガチでも「こんなものだ」と思い込んでしまう。そうして「感じる力」が少しずつ衰え、本来なら気づけるはずの小さな変化を拾えなくなってしまうのです。
FNT(Functional Neuro Training)とは?
FNTは「神経科学の視点から仮説を立て、それをトレーニングによって検証していく」アプローチです。セラピーではなく「トレーニング」という位置づけなのが大きな特徴です。
体に新しい刺激を与え、それを自分の意識で感じ取り、動きや感覚を再学習していく。このプロセスを繰り返すことで、神経回路が鍛えられ、使いやすい体の状態が定着していきます。
私が強く感じるのは、FNTは「気づくこと自体がトレーニング」になるという点です。体の小さな変化に意識を向けることが、神経系に新しい回路を作り直すきっかけになるのです。
整体での具体的なアプローチ
FNTを学んでから、通常の整体施術にも神経学的な工夫を取り入れるようになりました。
- 後頭下筋群へのアプローチ
頭の付け根にある小さな筋肉群は、眼球運動や頸部の反射に深く関わっています。ここをリリースしながら目の動きを確認すると、頭痛やめまいが和らぐことがあります。 - 胸郭の可動性を高める施術
横隔膜や肋間筋が固まっていると、呼吸は浅くなり、自律神経の働きも乱れやすくなります。胸郭を広げるような施術を行い、その場で深呼吸してもらうことで「呼吸が入る感覚」を実感しやすくなります。 - モーターコントロールの併用
鏡を見ながら「ここが動いていないですね」「今カクカクしてますね」とフィードバックを伝えます。動きを意識して修正していくことで、体の再学習が進みやすくなります。
セルフケアの提案
- 呼吸の意識化
胸やお腹の動きを感じながら、ゆっくり吸って、ゆっくり吐く。1日数回でも続けると、自律神経が落ち着きやすくなります。 - 簡単な眼球運動
スムーズパースート(なめらかな追視)やVOR(前庭動眼反射)のトレーニングは、後頭下筋群との関わりも深く、首や肩の緊張をやわらげる効果があります。 - デスクワーク習慣の改善
1時間に1度は立ち上がる。深呼吸をする。モニターの高さを調整する。小さな工夫で感覚は戻りやすくなります。
まとめ
整体の現場でよく感じる「再現性の難しさ」。
FNTを学んで強く思うのは、それは技術の問題だけではなく「体に意識を向ける力」に深く関わっているということです。
感覚が鋭い人は変化をすぐに拾える。感覚が鈍い人は、まず「気づくこと」から始める必要がある。その差を埋めるのがFNTの大きな役割です。
FNTはセラピーではなくトレーニング。体を鍛えるように、感覚も鍛えていくものです。
そして、体の小さな変化に気づけるようになると、施術の効果は一段と再現性を増し、日常生活の質も大きく変わっていきます。
私自身、これからもブログや施術を通じて、「気づくことがトレーニングになる」という考えを広めていきたいと思っています。