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【53】側湾症について

側湾症についてお問い合わせをいただいたことをきっかけに、自分自身の復習として、側弯症について改めて専門文献や神経科学、姿勢制御理論、遺伝学の資料をいくつも参照し直しました。ここでは施術内容には触れず、側弯症をひとつの姿勢制御ネットワークの適応現象としてどのように捉えることができるのかを、純粋に学術的な観点からまとめます。施術についてはまたどこかでお伝えしたいと思います。

側弯症は一般的には脊柱の構造変形として説明されますが、現在の神経科学では、脊柱の形状変化は長期的な「入力と統合の偏り」の結果として生じると考える研究が増えています。つまり、脊柱そのものの問題というよりも、脳が姿勢をどう解釈し、どのような運動指令と筋緊張様式を生成しているのか、そのネットワーク全体のアウトプットとして側弯が現れるという視点です。

まず前提として、姿勢制御は前庭系、視覚系、体性感覚系、小脳、脳幹、さらに大脳皮質によるトップダウン制御まで含む多階層のネットワークによって成り立っています。これらのシステムは互いに補正し合いながら、身体の位置、運動の方向、重心の変化を推定し続けています。どれか一つの要素に偏りが生じると、ネットワーク全体の調整が崩れ、姿勢の非対称性が慢性的に形成され、その結果として脊柱の形状に影響が及びます。

側弯症の研究において最も議論されるのが前庭系の非対称性です。前庭機能の左右差が存在すると、前庭脊髄反射の出力に差が生じ、体幹伸展筋の緊張分布が非対称になります。これが長期間続くと、脊柱は筋緊張の偏りに適応し、側屈と回旋を組み合わせた形状を固定化します。前庭器の片側の出力がわずかに低下しただけでも、脳は身体がわずかに傾いていると推定してしまい、その誤推定を補おうとして姿勢がねじれます。この「誤った姿勢推定を補うための代償行動」が長年繰り返されると、脊柱構造にも残存する形で変化が現れるという考え方が主流になりつつあります。

小脳についても同様に、左右どちらかの統合機能に偏りがあれば、深部感覚と前庭入力と視覚入力を統合した際の「姿勢軸の推定」にずれが生じます。とくに片葉小節葉は前庭情報を扱う部位として古くから知られており、ここに代謝的負荷が偏ると、無意識下の姿勢補正が常に左右どちらかに寄ってしまうことが報告されています。小脳は脊柱起立筋の緊張調整にも深く関与するため、左右の小脳の働きにわずかな差があるだけでも、体幹の筋活動パターンは大きく変わります。

体性感覚の入力も極めて重要です。姿勢制御の多くは足裏、足関節、股関節、体幹深部の固有受容覚によって維持されており、これらの入力が低下すると身体位置の推定に誤差が生じます。重心が本来より片側にあるように感じる状態が続くと、脳は倒れまいとして反対側の筋緊張を高め、それが固定化することで脊柱の弯曲が助長されます。軽度の側弯が青年期には大きく進行しないにもかかわらず、加齢に伴う筋力低下や固有感覚の低下によって進行が目立つケースがあるのは、この身体位置の推定精度の低下によるものと説明できます。

視覚系も姿勢制御の中心的役割を担っています。スムーズパースートの左右差、サッカードの速度差、固視の安定性の低下など、視覚処理の非対称はそのまま前庭核の活動に影響し、結果として体幹筋のトーヌスにも影響します。視覚は姿勢制御システムのトップダウン補正として働くため、ここに左右差が生じると、姿勢偏位が慢性的に維持される原因となります。

遺伝学の観点からは、特発性側弯症に関連する遺伝子としてLBX1が注目されています。LBX1は脊髄感覚神経や筋の形成に関与しており、特定の遺伝的バリアントを持つ人は姿勢制御ネットワークの初期条件が異なる可能性があります。この遺伝的背景があることで、若年期には軽度の側弯があっても筋力や前庭機能が十分に補正しているため目立たず、しかし加齢に伴い補正能力が低下するとカーブが進行するという現象を説明することができます。遺伝子そのものが側弯を引き起こすわけではありませんが、神経系が姿勢制御を行う際の基盤となる初期設定がわずかに異なることで、環境因子や加齢と相互作用し、側弯のリスクや進行性に影響すると考えられます。

以上をまとめると、側弯症とは脊柱の構造変化というよりも、脳が姿勢をどのように解釈し続けてきたのかという「情報処理の履歴」が形となって現れた状態です。脊柱は神経系の活動パターンの積み重ねを反映する構造物であり、側弯とはその履歴が特定方向に蓄積した結果であると言えます。構造だけを見ても本質には辿り着けず、姿勢制御システム全体の機能状態を理解することで初めて側弯を多角的に捉えることができます。

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